◆H17. 5.12 東京地裁 平成16(ワ)10223 著作権 民事訴訟事件
事案の概要
1 本件において,原告は,被告の出版・販売に係る「個人旅行」シリーズと題する国・地域別旅行案内書(以下,「個人旅行」シリーズの書籍を「被告書籍」という。)の第9版を納品し,さらに,被告の出版・販売する旅行ガイドブック「まっぷるマガジン国内版『金沢』」に掲載する写真(以下「本件写真」という。)を被告に売り渡したとして,被告に対し,被告書籍第9版の制作委託契約(以下「本件制作委託契約」という。)及び本件写真の売買契約に基づき,被告書籍第9版の編集等の報酬863万1000円及び本件写真の対価157万5000円の合計1020万6000円のうち未払金750万円及びこれに対する平成15年5月1日(本件制作委託契約上の報酬支払期日の翌日。本件写真の引渡し後の日。)から支払済みまでの商事法定利率年6分に基づく遅延損害金ないし利息(民法575条)の支払を求めている。
これに対して,被告は,被告書籍第9版の制作委託契約を締結した相手方は原告ではなく,株式会社ケイ・アンド・ビー・パブリッシャーズ(以下「K&B」という。)であった。仮に,上記制作委託契約の締結相手が原告であったとしても,原告が納品した被告書籍第9版に掲載された各地の空港案内図(以下「第9版本件空港案内図」という。)は,株式会社オーエフシー(以下「OFC」という。)の著作権を侵害し又はこれを利用したものであったから債務の本旨に従った履行がなされていないとして,原告の被告書籍第9版の編集等の報酬支払請求権の発生を争い,さらに,仮に,原告が被告書籍第9版の編集等の報酬支払請求権を有していたとしても,原告が制作・納品した被告書籍(被告書籍第9版より前に制作・納品した被告書籍を含む)に掲載された各空港案内図(以下,被告書籍に掲載された空港案内図を,第9版本件空港案内図を含め,「本件空港案内図」と総称する。)が,OFCの著作権を侵害していたために,被告は,OFCに対して解決金750万円を支払わざるを得なかったから,被告は,原告に対して750万円の反対債権(原告と被告との間の支払合意に基づく支払請求権,債務不履行に基づく損害賠償請求権,制作委託契約上の条項に基づく既払報酬返還請求権ないし不法行為を理由とする損害賠償請求権)を有しており,被告は,原告に対し,平成15年10月15日付の書面で,上記債権をもって原告の被告に対する上記未払金債権と対当額で相殺した(甲3)ことにより消滅したとして,原告の請求を争っている。
判旨
第9版本件空港案内図が第9版対応OFC空港案内図の著作権を侵害しているといえるか
ア 第9版本件空港案内図が第9版対応OFC空港案内図に係るOFCの著作権を侵害しているというためには,第9版本件空港案内図の制作者がOFC空港案内図に接し,これに依拠して第9版本件空港案内図を制作したことのほかに,その結果制作された第9版本件空港案内図が,第9版対応OFC空港案内図に類似し,第9版本件空港案内図を見る者が第9版対応OFC空港案内図の創作的表現における特徴を感得し得るものであることを要する。
そこで,以下,第9版本件空港案内図と第9版対応OFC空港案内図の依拠性及び類似性について判断する。
イ 依拠性について
原告は,本件空港案内図の作成に当たって,OFC空港案内図を参考にしたことを認めており,本件空港案内図の作成経緯について有効な主張,立証をしないから,弁論の全趣旨によれば,原告から委託を受けたK&Bは,本件空港案内図の作成に当たっては,OFC空港案内図を参照したものと認められ,第9版本件空港案内図の作成においても,第9版対応OFC空港案内図を参照したものと認められる。したがって,第9版本件空港案内図から,第9版対応OFC空港案内図における創作的表現部分についての特徴を感得し得る場合には,依拠性を認めることができる。
ウ 類似性について
そこで,次に,上記(1)において認定した第9版対応OFC空港案内図の内容及びその創作的表現部分等との対比において,第9版本件空港案内図が第9版対応OFC空港案内図に類似し,第9版本件空港案内図を見る者が第9版対応OFC空港案内図の創作的表現における特徴を感得し得るものであることを要するかどうかを,検討する。
著作権侵害の成否
本件空港案内図とOFC空港案内図は,ターミナル部分をどのように区分して図面化するかという点で,前記b@Aの共通点を有するが,かかる手法は,空港案内図を作成する際の極めて一般的な手法であり,この点をもって第9版対応OFC空港案内図の創作的表現部分における特徴ということはできない。むしろ,上記両空港案内図は,前記c@ABの相違点を有しており,特に前記cAの点においては,OFC空港案内図独自の工夫とみられる点を備えていないということができる。
上記両空港案内図は,フロア及びフロア内施設の具体的な表現方法という点で,前記bBCの共通点を有しているが,同Bの手法は,空港案内図を作成する際の極めて一般的な手法であり,同Cの手法は,前記(1)オ記載のとおり,OFC以外の者による空港案内図でも多く採用されている一般的な手法であり,この点をもってOFC空港案内図の創作的表現部分における特徴とはいうことはできない。むしろ,上記両空港案内図は,前記cCDEの相違点を有しており,殊に,第9版本件空港案内図の方が,施設の名称を表示する文字が大きく,フロア部分の枠線に比して太字で濃い点において,見やすさや与える印象に差異を生じている。
上記両空港案内図は,施設情報の選択という点で,前記bDの共通点を有するが,これらの掲載情報は,いずれも創作的表現部分における特徴とはいえない。むしろ,上記両空港案内図は,前記cFGの点で相違点を有している。
上記両空港案内図は,前記bFの点で共通点を有するが,この手法は,前記(1)オ記載のとおり,よく用いられる手法であるから,この点をもってOFC空港案内図の創作的表現部分における特徴とはいえない。
前記bEの点については,そもそも創作性が認められない。
また,上記両空港案内図は,前記cHの点で相違している。
そうすると,上記両空港案内図は,共通している部分については,空港案内図を作成する際によく用いられる一般的な手法であって,OFC空港案内図の創作的表現部分における特徴とは言い難く,むしろ,施設名称の具体的表記方法や全体の配色等によって,異なる印象を与えるものであるから,本件空港案内図を見る者がOFC空港案内図の創作的表現における特徴を感得し得るということはできない。
本件において,原告は,本件制作委託契約及び本件写真の使用権設定契約に基づき,被告書籍第9版の編集等の報酬863万1000円及び本件写真の対価157万5000円の合計1020万6000円のうち未払金750万円及びこれに対する平成15年5月1日(本件制作委託契約上の報酬支払期日の翌日。本件写真を引渡し後の日)から支払済みまでの商事法定利率年6分に基づく遅延損害金ないし利息(民法575条)の支払を求めているところ,上記によれば,本件制作委託契約につき,被告がその請求を争う理由として掲げる主張(契約当事者の相違,契約上の債務の本旨に従った履行の否定)は,いずれも理由がなく,原告は本件制作委託契約及び本件写真の売買契約(ないしは制作委託契約)に基づく債務を履行しているものと認められるから,被告に対する上記未払金750万円の支払請求権が存在し,これらの債務は商行為によって生じた債務(商法514条)に該当するから,上記期日後について商事法定利率年6分の割合による遅延損害金ないし利息が発生しているものというべきである。そして,上記によれば,上記未払金支払債務について被告が主張する相殺の抗弁については,被告が反対債権として主張する債権の発生を認めることはできない。
そうすると,その余の点について判断するまでもなく,上記未払金750万円及びこれに対する平成15年5月1日から支払済みまでの年6分の割合による金員の支払を求める原告の本件請求は理由がある。