マネジメント社営業書籍著作権(複製権、翻案権)侵害訴訟 平成19年8月30日東京地裁

【マネジメント社営業書籍著作権(複製権、翻案権)侵害訴訟】

平成19年8月30日判決東京地裁

主文
1 被告は,別紙著作権侵害箇所目録記載の文章又は図を掲載した別紙被告書籍目録記載の書籍を販売し,又は頒布してはならない。
2 被告は,別紙被告書籍目録記載の書籍における別紙著作権侵害箇所目録記載の文章又は図を掲載した部分を廃棄せよ。
3 被告は,原告株式会社マネジメント社に対し,3万8205円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告Aに対し,21万6495円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求を棄却する。
6 訴訟費用はこれを4分し,その3を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。
7 この判決は,第1項,第3項及び第4項に限り,仮に執行することができる。

第1 請求の趣旨
1 被告は,別紙被告書籍目録記載の書籍を販売及び頒布してはならない。
2 被告は,別紙被告書籍目録記載の書籍を廃棄せよ。
3 被告は,原告株式会社マネジメント社に対し,143万2357円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告Aに対し,143万2357円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は,謝罪広告を,別紙謝罪広告目録の要領にて,日経新聞全国版,朝日新聞全国版の各朝刊に掲載せよ。
6 仮執行宣言

第2 事案の概要
本件は,原告らが,被告に対し,被告が執筆した別紙被告書籍目録記載の書籍が,別紙原告書籍等目録記載の書籍又は配布資料等を複製又は翻案しているとして,原告Aは別紙原告書籍等目録記載の書籍又は配布資料について有する著作権(複製権及び翻案権)に基づき,原告株式会社マネジメント社は別紙原告書籍等目録2,3記載の書籍について有する出版権に基づき,別紙被告書籍目録記載の書籍の販売等差止め及び廃棄,損害賠償並びに謝罪広告の掲載を求めたという事案である。被告は,別紙被告書籍目録記載の書籍が,別紙原告書籍等目録記載の書籍又は配布資料等の複製又は翻案であることを否認してこれを争っている。…

第3 争点に関する当事者の主張…

第4 当裁判所の判断

1 争点1(被告書籍が原告書籍等の複製又は翻案であるか)について
(1) 総説
著作権法は,「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(同法2条1項1号)と定めており,思想又は感情の創作的な表現を保護するものである。したがって,思想又は感情を創作的に表現した言語の著作物について,実質同一の表現を模倣した場合は複製権侵害として,表現上の本質的特徴を直接感得できる程に類似したものを依拠して作成した場合は翻案権侵害として,著作権侵害が認められるものであり,これに対し,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体でないもの,事実の伝達にすぎず表現上の創作性がないものは,著作権法によって保護されず,かかる部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製又は翻案には当たらないと解するのが相当である(最一小判平成13年6月28日民集55巻4号837頁参照)。
(2) 依拠について
被告は,訴外E株式会社に勤務していたときに原告Aに研修の依頼をしたことから原告Aと知り合い,同社を退職後に,原告Aと販売代理店契約を締結し,原告Aの研修業務について代理店業務を遂行した後,独立し,原告Aと同じ内容の研修業務を開始したものである。また,原告Aは,被告が平成9年ころ研修用セミナーにおいて配布した文書が原告Aの著作権を侵害するとして,平成12年に東京地裁に被告を提訴し,平成13年7月30日に,著作権侵害を理由として,被告に対し損害賠償等を命じる判決を得ている。(甲12)
上記の経緯及び別紙原告書籍等目録記載の原告書籍等の発行年月日並びに弁論の全趣旨に鑑みれば,被告が被告書籍執筆当時既に公刊ないし配布されていた原告書籍1ないし3及び原告配付資料等に接する機会があったことは明らかである。
(3) 被告著作物目録記載の箇所について
ア被告著作物目録1(被告書籍121頁)と原告著作物目録1の1,2の1,3の1・2について
a) 原告著作物目録1の1,2の1,3の1・2と被告著作物目録1とを対比すると,セールスマンが初回の訪問のアポ取りから始めて,訪問先のキーマンから注文を受けるまでのキーマンの心理の変遷を6段階に分けて説明すること(原告著作物目録1の1,2の1における「必殺6連発の術」,原告著作物目録3の1・2における「受注の方程式」,被告著作物目録1における「感動営業の必勝6連続法」)において,共通する。

(9) 結論
以上によれば,被告書籍のうち,別紙著作権侵害箇所目録1及び6記載の箇所(合計1.5頁)は,原告Aの著作権(複製権ないし翻案権)及び原告会社の出版権を,別紙著作権侵害箇所目録2ないし5,7及び8記載の箇所(合計6.5頁)は,原告Aの著作権(複製権ないし翻案権)を侵害するものである。

2 争点2(被告書籍全体の差止め及び廃棄が認められるか)について
証拠(乙7)によれば,被告書籍の総頁数は238頁であり,その本文は,第1章「強い営業軍団をもたない企業は滅ぶ」(19頁から45頁),第2章「営業幹部は『知恵出し』が仕事」(47頁から61頁),第3章「お客さまが求める営業とは」(63頁から79頁),第4章「悩む営業を救う感動経営の実践」(81頁から105頁),第5章「新規顧客攻略法『感動の方程式』」(107頁から123頁),第6章「新規顧客攻略法『感動技の研究』」(125頁から139頁),第7章「感動の実践事例」(141頁から183頁),第8章「我社の感動実践〈17の事例紹介〉」(185頁から235頁)からなること,前記1において著作権侵害が認められた箇所は,第2章のうち0.5頁(著作権侵害箇所目録2),第4章のうち2頁(同目録4及び6),第5章のうち3頁(同目録1,5,7),第6章のうち2.5頁(同目録3,8)の合計8頁であることが認められる。
以上のとおり,原告書籍等の著作権を侵害している箇所は,被告書籍の一部分である。しかし,被告書籍が著作権侵害箇所目録記載の箇所を掲載して,全体として一冊の本として出版発行されている限りは,被告書籍の出版により,原告らの意思に反して原告書籍等の無断複製物ないし翻案物を頒布又は販売することになるのであるから,著作権侵害箇所目録記載の箇所を掲載した被告書籍の印刷・出版発行の差止めを認めざるを得ない。ただし,著作権侵害箇所目録記載の箇所とその余の箇所は可分であり,被告書籍の大半を占める部分は,原告らの著作権を侵害しない部分であることからすれば,原告らの著作権を侵害している箇所に限って,その廃棄が認められるというべきである。
原告らは,著作権侵害部分を削除した場合には,被告書籍自体の根幹が欠落することになり,被告書籍自体が意味のないものになるので,被告書籍は全体として差止め及び廃棄されるべきであると主張する。しかし,著作権侵害箇所目録記載の箇所を削除しても,被告書籍が意味のないものになるとは認められず,侵害箇所と可分な箇所は,それ自体で意味を有するのであるから,原告らの主張は採用することができない。

3 争点3(損害の額)について

(1) 被告書籍の頒布・販売部数について
ア証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり認められる。被告と訴外会社は,平成17年(2005年)8月30日,被告書籍の出版について出版契約を締結した。この契約においては,被告への著作権使用料の支払の定め(16条の定型文言)が抹消されており,代わりに,被告が訴外会社に対し,出版制作料として合計235万2000円を支払うこと,訴外会社が自主決定による重版を行った場合は7%の印税を支払うことが定められている。また,被告による買上げ価格が定価の8割と定められている(15条)。
原告らと訴外会社との間で,平成18年11月10日,裁判上の和解が成立した。この和解において,訴外会社は,保管中の2563部のうち,訴外会社所有の1143部と被告所有の920部の合計2063部を廃棄する義務を負い,その後,返品分の6部を加えた合計2069部を廃棄した。また,被告所有の500部は被告に引き渡され,被告が保管している。
イ上記認定事実によれば,被告書籍の印税は初版時にはなく重版時から支払われるものである一方,被告は定価の8割の価格で被告書籍を買い取っている。したがって,被告書籍の発行はいわゆる自費出版であったものと認められる。そして,被告が買い取った2000部のうち,920部は前記裁判上の和解により既に廃棄済みであり(被告は,この和解に参加していないものの,訴外会社がこれを廃棄することを承諾したものと考えられる。),500部は被告が保管中であり,564部は頒布された。また,一般書店に流通した2000部のうち,851部は販売済みで,1149部は回収の上廃棄されたものである。

(2) 著作権法114条1項による算定
ア原告は,被告書籍における単位数量当たりの利益の額は,少なくとも定価の50%を越えているとして,原告書籍における単位数量当たりの利益の額も定価の50%を越えると主張する。原告は,原告書籍2及び3の定価を明らかにするだけで,費用の明細を明らかにしないものの,前記認定事実によれば,被告書籍は,851部が一般書店を通じて販売されており,証拠(乙2,3の1・2,5の1・2,6)によれば,訴外会社が,定価の67%の938円で被告書籍を取次店に委託販売したこと(したがって,返品の場合は,卸価格を清算する必要がある。),及び,4000部の印刷製本代金が78万1200円(税込)であったことが認められる。そこで,被告書籍の販売利益を算定すると,被告は,851部を卸価格938円で販売し,印刷製本代は1冊当たり195円であること,及び,書籍を増刷する場合,その作成に要する費用は,著者に支払う印税のほかは,主に印刷製本費用であることからすると,その余の細かな経費を差し引いても,訴外会社は被告書籍1冊あたり少なくとも700円の利益を挙げたことになる(938円-195円=743円)。そして,被告書籍と原告書籍2及び3とでは,印刷製本費用の定価に定める割合において特段の差異があることを認めるに足りる証拠はないから,訴外会社が被告書籍1冊当たりで得た利益の700円が定価1400円の50%であることからすれば,原告らが原告書籍2及び3を増刷して得ることができる利益(限界利益ないし貢献利益)も,印税のほかは,定価の50%を下らないものと認めるのが相当である(本件の原告らは,著者と出版権者であるから,原告らの譲渡利益には,印税も含めて算定するのが相当である。)。
イ前記認定事実によれば,被告書籍は,851部が一般書店を通じて販売され(なお,訴外会社は,委託販売を行い,各書店から返品された分は卸価格の清算を行う必要があるので,返品分を譲渡数量に含めるべきではない。),564部が被告によって頒布されている。そして,原告らが,被告と訴外会社による侵害行為がなければ得たであろう利益は,上記限界利益(貢献利益)をもって算定するのが相当であるから,原告書籍2及び3の定価1800円の50%の900円に1415部を乗じ,これに侵害部分の被告書籍における寄与度を乗じた金額となる。
ウ前記認定の侵害部分は,合計8頁であり,被告書籍全体の238頁に比べると多くはない。しかし,前記認定の侵害部分は,原告書籍等及び被告書籍に共通して,いずれの書籍においてもその考え方の中核をなす部分の一部であり,書籍を特徴づける内容となっている部分の一部を構成するものであるから,書籍全体に占める当該頁の寄与度は,頁数を大きく上回るものであり,全体の2割と認めるのが相当である。被告は,著作権法114条1項は,権利者の著作物と侵害者の著作物との間に市場における代替関係が存在することを前提としており,①被告が譲渡した564部は,知人や受講生らに無償配布したものであって,一般の市場を対象にしたものではないから,被告による譲渡行為によって原告書籍の売上げが減少するという関係にはない,②訴外会社により一般市場で譲渡された851部についても,仮に,著作権侵害が成立するとしても,被告書籍の一部にすぎず,全体としては被告書籍は原告書籍と全く違う本であるから,被告書籍を購入しようとする者が原告書籍を購入することは考えられない,と主張する。しかし,被告書籍が被告の研修の受講生らに無償譲渡されたものであるとしても,研修費用を含めれば有償であると解されること,及び,被告の知人への無償譲渡については,その数量等が全く不明であること,並びに,前記認定の侵害部分は,原告書籍等及び被告書籍に共通して,いずれの書籍においてもその考え方の中核をなす部分の一部であり,書籍を特徴づける内容となっている部分の一部を構成するものであるから,当該侵害部分が被告書籍の販売ないし譲渡に寄与しているものというべきである。また,被告は,原告らと訴外会社との間では既に裁判上の和解が成立しているので,訴外会社の譲渡分851部を計上するのは相当でない,と主張する。しかし,被告と訴外会社間で共同不法行為が成立するものである以上,被告が訴外会社の譲渡分についても損害賠償義務を負うことは当然である。また,原告らと訴外会社との間で裁判上の和解が成立しているとしても,不真正連帯債務については債権を満足させるもの(弁済・相殺)以外の事由は相対的効力を生じるにとどまると解すべきであるから,訴外会社に対する請求放棄等の条項は,被告に対し,何らの影響も与えないものと解すべきである(最一小判平成6年11月24日判時1514号82頁参照)。
エ以上によれば,被告と訴外会社による侵害行為がなければ原告らが得たであろう利益は,次のとおりである(著作権法114条1項)。700円×1415部×0.2=25万4700円
このうち,原告らが権利を有する部分(別紙著作権侵害箇所目録1及び6)の損害額は,25万4700円×(3/10)=7万6410円であり,原告らは,このうち各2分の1ずつ,3万8205円を請求できる。また,原告Aが権利を有する部分(別紙著作権侵害箇所目録2ないし5,7及び8)の損害額は,25万4700円×(7/10)=17万8290円である。
(3) 著作権法114条2項による算定額及び著作権法114条3項による算定額は,次に述べるとおり,いずれも上記認定額よりも低額であるから,上記認定額をもって,原告らが被った損害額と認める。
ア著作権法114条2項を適用した場合
原告らは,被告と訴外会社の共同不法行為責任が成立するとして,訴外会社の得た利益を基礎に,著作権法114条2項を適用すべきであると主張する。しかし,このような算定を行う場合には,公平の見地から,訴外会社の得た利益と被告の得た利益ないし損失を合算した金額を利益の額として算定すべきである。
前記認定事実によれば,被告書籍は,851部が一般書店を通じて販売され,564部が被告によって頒布されている。また,訴外会社が,定価
の67%の938円で取次店に委託販売したこと(したがって,返品の場合は,卸価格を清算する必要がある。),4000部の印刷製本代金が7
8万1200円(税込)であったことも前記認定のとおりである。さらに,被告は,自費出版費用として,235万2000円を支出している。
そこで,各利益を算定すると,被告は,851部を卸価格938円で販売し,印刷代は1冊当たり195円であることから,主たる費用が印刷製
本代金のみであるとすると,1冊あたり743円の利益を挙げたことになる。したがって,訴外会社の得た利益は63万2293円である(=743円×851部。なお,被) 告は委託販売を行い,各書店から返品された分は卸価格の清算を行う必要があるので,返品分を譲渡数量に含めるべき
ではない。また,被告は,564部を頒布しており,これは無償譲渡であると主張するものの,仮に,定価の1400円で譲り渡したとすると,仕入価格が定価の8割であることから,被告の得た利益は,15万7920円(=1400円×0.2×564部)である。
以上のとおり,訴外会社の得た利益(控除すべき費用を含む暫定値)と被告の得た利益を合算しても,被告の支出した自費出版費用を下回っていることが明らかである。よって,被告利益はないものと認められる。
イ著作権法114条3項を適用した場合
著作権法114条3項による算定額も,被告書籍全体の使用料相当額が,次の式のとおり,19万8100円となるので,その侵害部分の割合を2
割としても,上記認定額を下回ることは明らかである。(851+564)部×1400円×10%=19万8100円

4 争点4(謝罪広告の要否)について

既に認定したとおり,発行された被告書籍4000部のうち頒布ないし販売されたのは1415部にとどまること,被告書籍の多くは回収されて既に廃棄処分にされたこと,被告書籍のうち原告らの著作権を侵害する箇所が被告書籍全体の頁数と比較すれば多くはないことに照らせば,謝罪広告を命じる必要性は認められない。

5 結論

よって,原告らの請求は,著作権侵害箇所目録記載の箇所を掲載した被告書籍を頒布,販売することの差止め,前記目録記載の箇所を掲載した部分の廃棄,原告Aは21万6495円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成18年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,原告会社は3万8205円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成18年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余の請求はいずれも理由がないので,棄却することとし,仮執行宣言については,本件事案の内容にかんがみれば,主文第1,第3及び第4項に限り認めるのが相当であり,その余は相当でないからこれを却下し,訴訟費用の負担について民訴法61条,64項本文及び65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。

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