種苗法による植物新品種の保護と育成者権を国際水準(UPOV91年条約)に引き上げることは可能か

植物新品種の種苗法による保護

(1)植物新品種の保護とUPOV条約

植物新品種の経済的な価値が認識されるようになり,昭和36(1961)年UPOV条約が成立しました。昭和60(1985)年ペンタヨモギの特許が成立するなど特許法による新植物の保護がなされ,重複保護の必要性から,UPOV条約の改正が平成3(1991)年に実現し、平成10(1998)年に改正UPOV条約加盟のため種苗法を全面改正して,育成者権という新たな概念が創設された。

★参照条文
【種苗法】(目的)
第一条  この法律は、新品種の保護のための品種登録に関する制度、指定種苗の表示に関する規制等について定めることにより、品種の育成の振興と種苗の流通の適正化を図り、もって農林水産業の発展に寄与することを目的とする。

 

(2)種苗法の保護対象

種苗法の保護対象は,農林水産植物の品種です。農林水産植物とは,農産物,林産物および水産物の生産のために栽培される種子植物,しだ類,せんたい類,多細胞の藻類およびきのこ類である(2条1項,種施令1条参照)。全部で467種類に及び、きのこは菌類であるが,限定的に保護される。

品種とは,重要な形質に係る特性の全部または一部によって他の植物体の集合と区別することができ,かつ,その特性の全部を保持しつつ繁殖させることができる一の植物体の集合である(2条2項)。

重要な形質とは,登録出願品種の在来品種との区別性の判断基準となる形質である(2条6項,平成10年農林水産省告示1909号「種苗法第2条第6項の規定に基づく重要な形質」参照)。
たとえば,「稲」の重要な形質は,「草型,かんの形状,葉の形状,穂の形状,もみの形状,のぎの形状,玄米の形,玄米の大きさ,玄米の色,玄米の粒重及び玄米の品質」や,水稲または陸稲の札 うるちまたはもちの別,玄米の成分などになる。他の植物体の集合との区別性の判断は,この重要な形質の相違によるべきであって,遺伝子構造の相違によるべきではないものとされている(「えのきたけ事件」東京高裁:平9.2.27参照)。

 

(3)育成者権の発生要件

【主体的要件】
育成者権に関する権利能力が認められるのは,自然人と法人である。外国人は,UPOV条約との関連で平等主義又は相互主義などにより権利を享受できる(10条参照)。
育成者権を取得できるのは新品種の育成者またはその承継人である。育成者には品種登録を受ける権利が認められており(3条1項・17条1項1号・42条1項1号・14条・34条),特許法における特許を受ける権利と同様のものである。職務育成品種については特許法における職務発明と同様の取り扱いがなされる(8条,持35条参照)。

【客体的要件】
品種登録の要件は,①区別性(3条1項1号),②均一性(同項2号),③安定性(同項3号),④品種名称の付与(4条1項),⑤未譲渡性(同条2項)の5つである。
区別性とは,公然知られた他の品種と特性の全部または一部により明確に区別されることをいう。均一性とは,同一の繁殖の段階に属する植物体のすべてが特性の全部において十分に類似していることである。安定性とは,繰り返し繁殖をさせた後においても,特性の全部が変化しないことをいう。名称は,一の出願品種につき一の名称が付けられていなければならず(4条1項1号),登録商標と同一・類似するもの(同項2号)や出所混同のおそれがあるものは登録することができない(同項3号・4号)。未譲渡性とは,出願日から1年(外国では4年または6年)さかのぼった日以前に業として譲渡していなかったことをいう。これには,育成者の意に反して譲渡された場合や試験・研究のために譲渡された場合は含まれない。

【手続的要件】
育成者権の取得に関する原則として,審査主義(5条1項・2項),登録主義(19条1項),育成者主義および洗願主義(9条)が採用されている。
審査にあたっては,実地審査が採用されている。育成者主義は,出願者主義に対する観念で,特許法における発明者主義に対応する。品種登録の出願は,願書・説明書・出願品種の植物体の写真を農水大臣に提出し行う(5条)。なお,UPOV条約加盟国においては,出願日から1年間優先権の主張が認められる(11条)。
出願受理の後,遅滞なく出願公表され(13条),その後公表に基づく補償金請求権が特許法におけると同様に認められる(14条)。出願公表及び品種登録は官報により公示される(18条,19条1項)。品種登録の出願に係る品種名称が,登録商標と同一・類似のもの等であるとき(4条1項)は,その品種名称の変更が認められる(16条)。

育成者権の内容・効力・存続期間・制限・救済

 

(4)育成者権の内容

【育成者権とは】
育成者権は,登録により発生し,登録品種およびこれと特性により明確に区別されない品種を業として利用する排他的独占権である(20条1項本文)。さらに,登録品種に係る従属品種と交雑品種が品種登録された場合には,これらの品種の育成者が当該品種について有することとなる権利と同一の種類の排他的独占権も認められる(同条2項本文)。

【育成者権の効力】
育成者権は,品種の利用行為(2条4項1号・2号)に及ぶものである。その利用行為には,①その品種の種苗を生産し,調整し,譲渡の申出をし,譲渡し,輸出し,輸入し,またはこれらの行為をする目的をもって保管する行為,および②その品種の種苗を用いることにより得られる収穫物を生産し,譲渡もしくは貸渡しの申出をし,譲渡し,貸し渡し,輸出し,輸入し,またはこれらの行為をする目的をもって保管する行為が含まれる。生産とは個体数を増加させることをいい,調整とは採取した種子を洗浄し,乾燥し,薬剤処理をし,コーティングなどを行うことである。

【育成者権の存続期間】
権利の存続期間は品種登録日から原則25年間であるが,永年性の樹木とぶどうは品種登録日から30年間とされている(19条)。なお,育成者権には,特性保持義務と称されるものがあり,登録品種の特性の均一性,安定性が失われた場合の品種登録取消により消滅することがある(42条1項2号)。

 

(5)育成者権の効力の制限

育成者権は,特許権と同様の排他的独占権という強力な権利であることから,公共の利益,特許権との調整,農家等の保護,種苗の取引の安全という観点から次のような場合に権利の効力が制限される。

①新品種の育成その他の試験または研究のための品種の利用(21条1項1号)。特許法における試験・研究のための実施と同趣旨で認められるものであり,収量調査や栽培適性調査などが認められる。

②登録品種の育成方法についての特許権者,その専用実施権者、通常実施権者が当該特許方法に係る方法により登録品種の種苗を生産,調整等する行為とその収穫物の生産,譲渡,貸渡し,輸出,輸入等の行為(同項2号・4号)。これは,特許権との調整で特許権に優位性を認めたものである。

③登録品種の育成方法の特許権消滅後の原特許権者等の種苗生産行為とその収穫物の生産,譲渡,貸渡し,輸出,輸入等の行為(同項3号・4号)。これも,特許権との調整である。

④農業者の自家増殖行為(21条2項)。農家と農業生産法人が最初に育成者権者等から譲渡された登録品種等の種苗を用いて収穫物を得,その収穫物を自己の農業経営においてさらに種苗として用いる場合,そのさらに用いた種苗と,これを用いて得た収穫物には及ばない。これは,農業経営における慣行を,育成権者の正当な利益を害しない限度で認めるものであり,そのような慣行のない農業や園芸生産にまで拡張されることはない(同条3項)。

⑤育成者権者等により登録品種等の種苗または収穫物が譲渡された後における,その種苗・収穫物の利用行為(21条4項)。育成権者権の用尽の場合である。ただし,新たな種苗の生産譲渡された種苗等をUPOV条約非加盟国等に輸出するときは許諾が必要である。

⑥職務育成品種に関し通常利用権を有する使用者の利用行為(8条3項)。

⑦先育成者の利用行為(27条)。

⑧育成者権不利用および公共の利益に基づいてなされる農林水産大臣の裁定による利用許諾(28条,UPOV条約17条)に基づく利用行為。

 

(6)育成者権の侵害と民事救済・刑事制裁

育成者権の侵害とは,権原のない第三者が登録品種を業として利用することである。

【民事侵害に対する救済】
侵害に対しては,民事上の救済としての差止請求権(33条)と損害賠償請求権が認められるが(民709条,34条),損害額の推定,最低賠償額,損害額の裁量減額,過失推定(35条),書類提出命令(36条)の定めがある。不当利得返還請求権(民703条)が認められることは他の知的財産権におけると同様であり,信用回復請求権(37条)も認められている。

【刑事制裁】
刑事上の制裁として,育成者権侵害罪は,10年以下の懲役または1000万円以下の罰金刑とされ(併科もあり),業務主体処罰は3億円以下の規定がある(67条以下)。

……【法改正情報】……………………………………………………………………………………………………………

◆第193回国会  主要農作物種子法を廃止する法律案 成立 公布年月日 平成29年 4月21日 法律番号 20

「主要農作物種子法 は、昭和27年に、戦後の食糧増産という国家的要請を背景に、国・都道府県が主導して、優良な種子の生産・普及を進める必要があるとの観点から制定して、 稲・麦・大豆の種子を対象に都道府県による自都道府県内に普及すべき優良品種(奨励品種)の指定、原種及び原原種の生産、種子生産ほ場の指定並びに種子の審査制度等を規定していた。

しかし、種子生産者の技術水準の向上等により、種子の品質は安定している。農業の戦略物資である種子については、多様なニーズに対応するため、民間ノウハウも活用して、品種開発を強力に進める必要。しかしながら、都道府県と民間企業の競争条件は対等になっておらず、公的機関の開発品種が大宗を占めている。そこで、都道府県による種子開発・供給体制を生かしつつ、民間企業との連携により種子を開発・供給することが必要であるから廃止する。」

種苗法の省令の改正「農業者の自家増殖に育成者権を及ぼす植物種類の追加について」

平成29年12月15日 農林水産省食料産業局が出された。

「自家増殖に関する問題については、育成者権の効力を及ぼす植物の種類を増やすべき、品種保護の強化は必要だが、植物の種類ごとに慎重な検討が必要、育成者権者が種子の販売を別の業者に許諾している場合等においては、農業者と直接許諾契約をしていないので、契約による自家増殖の制限が困難、自家増殖に関する制度の農業者へのさらなる普及・啓発が必要である。
以上を踏まえ、現在までの実態把握の取組みを継続し、植物の種類ごとの実態を十分に勘案した上で、 自家増殖に育成者権の効力が及ぶ植物の範囲の拡大について検討することが必要。」

この結果、平成30年に農家が自家増殖できない品目にトマトやナス、ダイコンやニンジンなどを加えた。この結果、3倍以上に一気に増え、289品目が禁止された。さらに追加予定である。

なお、育成車検が通常ない在来種や固定種は自家採種可能である。また、F1種に切り替えることの必要もないし家庭菜園は育成者権があっても流通しないから可能である。

※●固定種・在来種の特徴 :形や大きさが統一ではない、生育時期がそろわない、地域の食材として根付き、個性的な豊かな風味、形質、自家採種可能
F1種の特徴:大きさが同じになる、生育が早い、甘くて柔らかい、雄性不稔(ミトコンドリア遺伝子異常で花粉を作れない、不妊植物)、自家採種では同じ性質をもった種が取れない

 

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