『キャラクターの著作物性 ポパイネクタイ事件』(最高裁H09.07.17)

『キャラクターの著作物性 ポパイネクタイ事件』(最高裁H09.07.17)


一 漫画において一定の名称、容貌、役割等の特徴を有するものとして反復して描かれている登場人物のいわゆるキャラクターは、著作物に当たらない。
二 二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作物部分のみについて生じ、原著作物と共通し、その実質を同じくする部分には生じない。
三 連載漫画において、登場人物が最初に掲載された漫画の著作権の保護期間が満了した場合には、後続の漫画の著作権の保護期間がいまだ満了していないとしても、当該登場人物について著作権を主張することはできない。
四 著作権法二一条の複製権を時効取得する要件としての継続的な行使があるというためには、著作物の全部又は一部につき外形的に著作権者と同様に複製権を独占的、排他的に行使する状態が継続されていることを要し、そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負う。

判旨…原審の適法に確定した事実関係…アメリカ合衆国において、その社員をして職務上創作させたポパイ等の登場人物を有する一話完結形式の漫画である「シンブル・シアター」を、昭和四年(一九二九年)一月一七日から新聞、単行本に逐次連載ないし掲載したが…ポパイは、「シンブル・シアター」の主人公であって、水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にパイプをくわえ、腕にはいかりを描き、ほうれん草を食べると超人的な強さを発揮する船乗りとして描かれている。
 右の一連の漫画の著作権は…に譲渡された。同被上告人は、昭和一九年(一九四四年)から少なくとも平成元年(一九八九年)四月二八日現在に至るまで、その社員をして右一連の漫画の続編となるポパイ等の登場人物を有する漫画を職務上創作させて、新聞、単行本に逐次連載ないし掲載している…昭和一三年(一九三八年)二月二五日、本件漫画のうち第一回作品について著作権登録をし、被上告人キング・フィーチャーズは、昭和三一年(一九五六年)二月一〇日、同被上告人名義でその更新登録をしている。
 上告人は、昭和五七年五月から別紙一記載の図柄(以下「本件図柄一」という。)を付したネクタイを販売している。
 …著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法二条一項一号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。けだし、キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである。したがって、一話完結形式の連載漫画においては、著作権の侵害は各完結した漫画それぞれについて成立し得るものであり、著作権の侵害があるというためには連載漫画中のどの回の漫画についていえるのかを検討しなければならない。
 このような連載漫画においては、後続の漫画は、先行する漫画と基本的な発想、設定のほか、主人公を始めとする主要な登場人物の容貌、性格等の特徴を同じくし、これに新たな筋書を付するとともに、新たな登場人物を追加するなどして作成されるのが通常であって、このような場合には、後続の漫画は、先行する漫画を翻案したものということができるから、先行する漫画を原著作物とする二次的著作物と解される。そして、二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である。けだし、二次的著作物が原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるのは、原著作物に新たな創作的要素が付与されているためであって(同法二条一項一一号参照)、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、別個の著作物として保護すべき理由がないからである。
 そうすると、著作権の保護期間は、各著作物ごとにそれぞれ独立して進行するものではあるが、後続の漫画に登場する人物が、先行する漫画に登場する人物と同一と認められる限り、当該登場人物については、最初に掲載された漫画の著作権の保護期間によるべきものであって、その保護期間が満了して著作権が消滅した場合には、後続の漫画の著作権の保護期間がいまだ満了していないとしても、もはや著作権を主張することができないものといわざるを得ない。
 ところで、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうところ(最高裁昭和五〇年(オ)第三二四号同五三年九月七日第一小法廷判決・民集三二巻六号一一四五頁参照)、複製というためには、第三者の作品が漫画の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部まで一致することを要するものではなく、その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りるというべきである。
 これを本件についてみるに、原審の前記認定事実によれば、第一回作品においては、その第三コマないし第五コマに主人公ポパイが、水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にパイプをくわえ、腕にはいかりを描いた姿の船乗りとして描かれているところ、本件図柄一は、水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にパイプをくわえた船乗りが右腕に力こぶを作っている立ち姿を描いた絵の上下に「POPEYE」「ポパイ」の語を付した図柄である。右によれば、本件図柄一に描かれている絵は、第一回作品の主人公ポパイを描いたものであることを知り得るものであるから、右のポパイの絵の複製に当たり、第一回作品の著作権を侵害するものというべきである。
 ところで、アメリカ合衆国国民の著作物については、平成元年三月一日以降はベルヌ条約により、それ以前は万国著作権条約によって我が国がこれを保護する義務を負うことから、日本国民の著作物と同様の保護を受けるところ(著作権法六条三号参照)、本件漫画は法人著作であり、その著作権の保護期間は公表後五〇年であって、昭和四年(一九二九年)一月一七日に公表された第一回作品の著作権の保護期間は、右公表日の翌年である昭和五年一月一日を起算日として、連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律四条一項によるアメリカ合衆国国民の著作権についての三七九四日の保護期間の加算をして算定すると、平成二年五月二一日の経過をもって満了したから、これに伴って第一回作品の著作権は消滅したものと認められる。
 前記の原審認定事実によれば、本件図柄一は、第一回作品において表現されているポパイの絵の特徴をすべて具備するというに尽き、それ以外の創作的表現を何ら有しないものであって、仮に後続作品のうちいまだ著作権の保護期間の満了していないものがあるとしても、後続作品の著作権を侵害するものとはいえないから、被上告人キング・フィーチャーズは、もはや上告人の本件図柄一の使用を差し止めることは許されないというべきである。
 著作権法二一条に規定する複製権は、民法一六三条にいう「所有権以外ノ財産権」に含まれるから、自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に著作物の全部又は一部につき継続して複製権を行使する者は、複製権を時効により取得すると解することができるが、複製権が著作物の複製についての排他的支配を内容とする権利であることに照らせば、時効取得の要件としての複製権の継続的な行使があるというためには、著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利を専有する状態、すなわち外形的に著作権者と同様に複製権を独占的、排他的に行使する状態が継続されていることを要し、そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負うものと解するのが相当である。
  他方、民法一六三条にいう「自己ノ為メニスル意思」は、財産権行使の原因たる事実によって外形的客観的に定められるものであって、準占有者がその性質上自己のためにする意思のないものとされる権原に基づいて財産権を行使しているときは、その財産権行使は右の意思を欠くものというべきである。
  これを本件についてみるに、原判決の挙げる、aが被上告人キング・フィーチャーズの許諾を得ないで本件図柄一を作成したという事実をもっては、aがその性質上自己のためにする意思のないものとされる権原に基づいて財産権を行使していたということはできないから(むしろ逆に、aが同被上告人の許諾を得て本件図柄一を複製したとすれば、そのことからaにおいて自己のためにする意思を欠いていたということができる。)、aによる本件図柄一の複製が自己のためにする意思を欠くものであるとして上告人の取得時効の抗弁を排斥した原審の判断は、法令の解釈適用を誤ったものというべきである。
  しかし、原審の認定によれば、上告人の主張する時効期間(昭和三三年六月二六日から二〇年)の間、被上告人キング・フィーチャーズがアメリカ合衆国において本件漫画を新聞、単行本に逐次連載ないし掲載していたほか、同被上告人から本件漫画の著作権について独占的利用権の設定を受けた被上告人ハーストが我が国において多数の企業との間で本件漫画の使用許諾契約を締結し、右契約に基づいてポパイの絵の付された菓子、文具、衣料、雑貨等の商品が広く市場に流通していたというのであり、加えて、前記のとおり本件図柄一に描かれているポパイの絵は、その姿態等において格別特異な特徴はなく、他のポパイの絵一般と識別すべき特徴が何ら認められないものであって、右によれば、a及び大阪三恵は、本件漫画における主人公ポパイの絵一般についてはもちろん、本件図柄一に表示されたポパイの絵に限定したとしても、これを複製する権利を独占的、排他的に行使していたということができないから、上告人の取得時効の抗弁は理由がない。
 そうすると、さきに説示したとおり、本件図柄一は、第一回作品のポパイの絵の複製として、その著作権を侵害するものであるから、上告人が本件図柄一を付したネクタイを右著作権の保護期間の満了前である昭和五七年五月三一日から同五九年五月三一日までの間販売したことにより被上告人キング・フィーチャーズが被った損害については、上告人は著作権の侵害として賠償の責めを負うものというべきである。右によれば、原審の判断は結論において是認することができるから、結局のところ、所論は理由がないことに帰する。論旨は採用することができない。

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