変わる遺言書の作成実務:改正相続法による遺言書の書き方ポイント その4

4.主な「法定遺言事項」および「実務上法定されていないが効力をもつと考えられている項目」

(承前)

(1)相続分の指定(民法902条)
(2)遺産の分割方法の指定(民法908条)
(3)推定相続人の廃除(民法893条)
(4)配偶者居住権の設定(改正民法1028条1項2号)

(5)遺贈(民法964条)

遺贈とは、遺言により人(法人も含む)に対し、遺言者の財産を無償で譲る単独行為である。民法上は、「包括遺贈」、「特定遺贈」、「負担付遺贈」の3形態があり、このほか信託法による「後継ぎ遺贈」もある。

なお、「相続させる遺言」は、相続人に対して使う言葉なので遺贈では使わない。

① 包括遺贈

遺産の全部または一部を割合(割合的包括遺贈)で示し、遺贈の対象とすることで(民法964条)、遺贈を受けた人(包括受遺者)は、法律上は相続人と同一の権利義務を持つため(同法990条)、もし遺言者に債務などの消極財産があれば、それも遺贈の割合に従って引き受けることになる。
もっとも、包括遺贈は、自己のために遺贈のあったことを知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に対して申述することで、放棄することもできる(同条、915条1項)。

② 特定遺贈

特定の財産を遺贈の対象とすることで(民法964条)、特定遺贈の放棄は、包括遺贈と異なり、遺贈者の死後いつでもできる。

③ 負担付遺贈

自分の死後、受道者に財産を贈る代わりに、一定の義務を負担してもらうものである。受遺者は、遺贈の目的の価額を超えない限度において負担した義務を履行する責任を負う(民法1002条1項)。

受遺した財産の範囲を超えてまで負担を履行する必要はなく、負担付遺贈を受けた者が義務を履行しないときは、相続人または遺言執行者は相当の期間を定めて履行を催告でき、それでも履行がなければ、遺言の取消しを家庭裁判所に請求できる(同法1027条、1015条)。

④ 後継ぎ遺贈(信託法)

後継ぎ遺贈とは、遺言者Aが死亡して、遺産を譲り受けた受遺者Bがさらに将来死亡したとき、Aがあらかじめ指定した者Cに、遺贈の目的物(残余財産)を与えるものである。このように、A⇒B⇒Cと、順次財産を受け継ぐ者を指定することを「後継ぎ遺贈」というが、信託法で認められている。
【信託法】……………………………………………………………
第三条(信託の方法)
信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。

二 特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法

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民法では、Aが遺言書で実現できるのは、あくまでもBへの遺贈までで、その時点でBに所有権が移るため、BからCへの遺贈につきAが指定することはできない。

この跡継ぎ遺贈を実現するためには、家族等に財産を信託する、いわゆる家族信託のスキームを利用する。

後継ぎ遺贈型受益者連続信託」(信託法3条2号、88条1項、89条2項)は、「親亡き後問題」への対処にも使える。例えば母親Aが、自分の死後、障がいのある長男Bにまず財産を引き継がせ、将来Bが亡くなったら、それまで長男の世話をしてくれた姪Cに残りの財産をあげるという方法です。このほかに、先祖代々の土地を子孫に伝えていくことを目的とした、「家産承継信託」もある。

(6)生命保険の保険金受取人の変更

2010年4月1日以降に締結された生命保険契約にっいては、遺言による保険金受取人の変更が可能となっている。遺言者の死後、遺言執行者などが生命保険会社に対して、死亡保険金の受取人が遺言により変更になったことを通知し、受取人を変更する請求を行う。

(7)一般財団法人の設立の意思表示(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条)

一般財団法人を設立するには、設立者(設立者が2人以上あるときは、その全員)が定款を作成して署名または記名・押印し、設立に必要な手続を行う。

この手続は遺言でも可能で、遺言執行者は、この遺言の効力が生じた後、遅滞なく、遺言で定めた事項を記載した定款を作成し、これに署名または記名・押印しなければならない。

(8)信託の設定「遺言信託」(信託法3条2号)

信託は、信託法で定められた財産の管理承継制度で、基本的な仕組みは、例えば、父親が生きているうちに長男に不動産の名義を移して信託し、管理運用してもらって父親が収益を受け取り、父親の死後は、長男が不動産を承継するというような仕組みである。

信託は、高齢の配偶者や、認知症・障がいを有する家族の生活や福祉を護るため(後見的財産管理)や、相続財産を適正に管理して特定の親族等に確実に財産を承継遺贈するため(円滑な資産承継)などに活用されている。

5.身分上の事項で遺言書に書けること

(1)認知(民法781条2項)

結婚していない両親のもとで生まれた子どもである非嫡出子と、父親との法律上の親子関係は、父親の認知によって生じる。遺言による認知も可能で、この場合、遺言執行者が就職した日から10日以内に認知届(戸籍法64条)を役所に提出する。

(2)未成年後見人、未成年後見監督人の指定(民法839条1項、848条)

離婚等により子どもの親権を持つ親は、自分の死後、代わりに子どもを監督する人(未成年後見人)を遺言で定めることができる。その人がきちんとやってくれるかを監督する、未成年後見監督人を指定することも可能である。

6.遺言の執行に関する事項およびその他の事項で遺言書に書くと効力があるもの

(1)遺言執行者の指定(民法1006条1項)

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■第一〇〇六条(遺言執行者の指定)
遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
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改正相続法の下で、遺言執行人は権限が強化されたのは十分に理由があることで、遺言執行者は、遺言の内容を実現するために重要かつ必要な行為である、財産目録の作成、預貯金の名義変更、不動産の相続手続などを行う権限がある。

利害対立した多くの相続人が何人いても、遺言書に従って、即ち故人の意思に従って、遺言執行者が代表して相続手続ができるので、迅速かつ確実に遺言の内容を実現できる。しかも相続人の廃除や非嫡出子の認知をする場合、遺言執行者は不可欠である。

仮に遺言執行者は遺言で指定しなかった時でも、次のように被相続人の死後、相続人等の利害関係者が家庭裁判所に申立てを行い、遺言執行者を選任してもらうことも可能であって、今後はこのケースも増加しよう。

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■第一〇一〇条(遺言執行者の選任)
遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
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なお、実務上は、遺言で執行人を指定するときは、原案作成者などの法律家が関与するので着任するのが通常であるが、その場合も含めて、引き受けるかどうかは任意であって、もし第三者に頼みたいときは事前承諾を得ておくとよい。相続おもいやり相談室の当職は、多くの遺言執行人受任予定である。

(2)特別受益の持戻しの免除をしたいとき(民法903条3項)

特別受益とは、下記の民法903条1項にあるように、被相続人から相続人が生前贈与や遺贈を受けた場合の利益のことで、この場合、さらにその相続人が遺産を法定相続分どおりに受け取ると、他の相続人に対し不公平になるので、受益分を相続財産に加算して相続分を算定することになっていて、「特別受益の持戻し」という。

もし、被相続人が持戻しの必要はないと考えた場合は、遺言により、持戻しをしなくてもよいという意思表示(持戻し免除の意思表示)をすればよい。

なお、下記の条文のように、相続法改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産の遺贈または贈与がされたときは、持戻しの免除の意思表示があったものと推定し、被相続人の意思を尊重した遺産分割ができるようになった(民法903条4項)。

この持戻し免除の意思表示推定の定めは、配偶者保護のためであるが、それでも推定に過ぎず、居住用不動産が高額で、相続人間に明らかな不公平が生じる場合は、遺留分の問題を避けるために、持戻し免除の意思表示推定が働かないよう、遺言で特別受益の持戻しの免除はしないと定めることもあろう。
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第九〇三条(特別受益者の相続分
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
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(3)祭祀を主宰すべき者の指定(民法897条1項)

繰り返しになるが、死亡直後の混乱を避けるためにも、これは一言でも遺言で触れるのがベターで、葬儀や法要を主宰する祭祀の主宰者を遺言で指定しておく。

(4)遺留分侵害額請求がなされた場合の対応

将来、遺言によって財産を受け取る受遺者や受贈者が、他の相続人から遺留分侵害額請求がなされると予想される場合は、遺言によって①相続財産である金融資産(預貯金等)から第一に支払うこと、②受遺相続人等の固
有財産(代償金)から支払うこと等の指定をすることができると解されている。

7.遺言能力

(1)意思能力(遺言能力)

相続発生後に問題になりやすいのは、遺言の作成当時、認知症があって、本人にそのような遺言をする意思能力(遺言能力)があったかどうかであろう。特に、自筆証書遺言の場合が多いが、公証人や証人が立ち会う公正証書遺言の場合でも稀にある。公証人と言っても様々であり、遺言者の遺言能力についても確認はしても不十分で、裁判で争われて遺言能力が否定され、遺言書が無効になったケースもいくつかある。

もっとも、ほとんど争って能力が否定されるのは、本人の事理弁識能力(判断能力)からして、そのような遺言内容を考えて作成することは難しいときで、例えば「住んでいた不動産は長女に相続させる」といった単純な遺言書ならともかく、相続税対策のために税理士が複雑なスキームを考え、それを公証人に伝えて文案を考えてもらったような場合は、認知症が進んでいたはずの遺言者にそんな高度な判断能力があったはずがないと裁判所に判断される場合が多い。

そこで、遺言書作成にあたっては、認知症などの疑いあれば、遺言時の意思能力についての医師の診断書を添付するなどとするといいであろう。

なお、現代社会では、平均寿命も延びており、今後は85歳を過ぎてから遺言書の作成をする場合も増えてくるであろう。その時は、認知症などの疑いについての万全の準備を遺言作成時に実務上する必要が極めて高い。

(2)遺言の意思

これは特に、訴訟で遺言について争われた場合、本人にそのような遺言をする意思があったこと(遺言の意思)を立証する必要がある。

自筆証書遺言は、公正証書遺言のように立会人がいないため、なかなか立証が難しい。秘密証書遺言についても、内容は秘密裏に作成されるので同様である。

公正証書遺言は、公証人が直接面談しているので、遺言の意思が問題になるヶ-スは稀である。もっとも、専門家が遺言書の内容を考えて公証人に伝え、それをもとに公証人が文面を作り、本人が関与するのは作成当日、公証人による文面の読み聞かせにうなずく程度というケースには問題になろう。

この場合に、誰に財産を渡すかの重要点は、ベテランの公証人であれば、必ず本人に言ってもらうので大丈夫である。やはり、公証人もさまざまである。

なお、訴訟実務上は遺言書作成時にビデオ録画したり、遺言書と同じ内容の記載のあるエンディングノートや下書きを残しておいたりなどすることが多い。自筆証書遺言の時には、相続おもいやり相談室の当職はそうしている。

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