変わる遺言書の作成実務:改正相続法による遺言書の書き方ポイント その5

1.誰に遺産を残すのか

(1)財産を承継する推定相続人および受遺者の決定

①法的な検討が必要

遺言書を作成する際は、将来の相続手続を確実にするために、また、その人が相続人かどうかで「相続させる」「遺贈する」との文言が変わることから、財産を承継する人(相続人または受遺者)の名前や生年月日、続柄を正確に記載する。

そこで、遺言者と相続人の関係がわかる「戸籍謄本」や「改製原戸籍謄本」、相続人・受遺者の「住民票」(法人が受道者となる場合は登記事項証明書)を取得する必要がある。

もっとも、住民基本台帳法の改正で、かってはほぼ自由に戸籍謄本や住民票などは入手できたものが、今日では一定の関係者以外は入手困難になった。

実務では、表記に誤りが少ないと考えられる「年賀状」を活用することもある。公証人次第であるが。

②人の特定に注意…姓名・続柄・住所等記載

死後、孫や友人など親しい相手に財産をあげたいと考えている場合、思わず遺言書の中で、「○○ちゃん」などを書くことがある。しかし、法律上はそれでは客観的に相手が特定できないため、将来、相続手続が困難である。本には悪気はないので誠に不本意な結果になる。また、世の中には同姓同名の人物がいるため、姓名だけでなく、続柄、住所なども書くのが望ましい。また、生年月日も分かれば記載したい。特に、第三者に遺贈する場合、少なくとも住所が記載されていないと遺族から連絡が取れない可能性がある。

【遺言時に必要な書類】

1)不動産関係

①登記事項証明書 法務局で誰でも入手可能
②名寄帳 市役所などで入手するがその名義人の市区町村に所有しているすべての不動産の情報が記載されている。尤も、それ以外の地域のものはわからない。
③固定資産評価証明書 市役所などで入手するが、実務上は公正証書遺言作成には固定資産税納税通知書で代用可能もある。
④土地賃貸借契約書のコピーは契約者が保管しているが、もし契約書がない場合は、借地権料の支払いを裏付ける送金票控えや通帳のコピーおよび土地の登記事項証明書などを入手しよう。

2)債権関係など

①借用書のコピーは、少なくとも債権者が保管していようが、借用書がない場合は、送金の事実を裏付ける送金票控えや通帳のコピー、その他メモ類を用意する。
②預貯金通帳のコピーは重要である。銀行などの金融機関で最新の通帳記入したものを用意する。通帳の表紙及び表紙をめくった裏面(名義人、支店名、口座番号等が書いてあるページ)のコピーが必要である。残高部分は必ずしも必要でない。
③証券会社からの通知書等のコピーは名義人・支店名・口座番号等が書いてある証書等のページのコピーをする。年に数回送られている確認書類でもいい。
④住宅ローンなどは特定する情報が記載された書類のコピーが必要である。被相続人が保管していよう。ローンなどの債務を特定の人に相続させる遺言は可能だが、死後、債権者保護の観点からその同意が必要になる。

3)生命保険関係

保険金など遺言者が生命保険金等を受け取れる生命保険証券のコピーがあるとよい。尤も死亡保険金を相続人が受け取るものは相続人の固有財産になるため遺言書には記載しない。受取人を変更したい場合は遺言書で変更できる。これは実務上よくある話である。遺言前後で気が変わることに相続おもいやり相談室の当職は何度も経験している。

(2)相続財産の調査

①公的な書類で確認する

財産についても、公的な書類をもとにした確実な情報を遺言書に記載する必要がある。最近当職が経験した相続案件では死後に、誰も知らない琵琶湖の別荘があることが判明したケースがある。大学の友人から買っていたようである。不動産が完全になかなか調査できない例である。記載漏れでトラブルがなりやすい。戸籍の附票等も含めて調査する。一定の限界もあるが「名寄帳」は必須であろう。判明する現在の所有不動産をもれなく調査し、できるだけ正確な財産目録を作成することが大切である。

②評価額を確認する

遺言書を書く前に、それぞれの財産の評価額を確認する。もしそれを無視して遺言書を書くと、評価額が低い財産を指定された相続人が不満を抱き、他の相続人に遺留分侵害額請求をするおそれがあるから。
預貯金や株式など金融資産の評価額は、通帳や金融機関から送られてくる郵送物、日経などの株式欄などで確認する。非公開の自社株式については評価が難しいが、いくつかの評価方式がある。
不動産の評価方法は様々であるが、相続においては、市役所等から送付される固定資産税納税通知書に記載されている課税標準額を第一次情報として参考にする。しかし遺留分侵害額請求がされる場合もあるので、実勢価格や路線価も参考にする。

(3)遺留分侵害の確認

事情によるが、あえて現財産では遺留分の侵害になるが、特別受益や使い込みなども含めて遺言書を作成することもある。しかし、遺言後の生存期間の長短で財産はかなり動く。あくまでも見込みで進めていく。

基本的には、半分が自由で半分が法定相続人に権利が残ると考えよう。

■第一〇四二条(遺留分の帰属及びその割合)
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

(4)遺言書作成がベターなケース

・子どもが親と疎遠になっている場合は親の財産のことを知らない可能性があり、せめて自筆証書遺言に財産の内容を書いておくと、相続手続の負担が小さくなる。相続おもいやり相談室のある京都の長岡京市では、死後にすぐに発見しやすいように遺言書を入れる筒形が普及している。

・不動産があり、相続人が2人以上いる場合は、不動産をどうするかという大きな問題があるので公正証書遺言を勧める。

・財産の種類が多い人は、公正証書遺言が望ましいが、改正相続法による自筆証書遺言に不動産の登記事項証明書等を財産目録として添付し、法務局に保管するのでもよい。

・相続をめぐって家族がもめそうな場合は勿論、自筆では改ざんのおそれがあり、また遺言能力をめぐって争いになりやすく、公正証書遺言の一択になるが、その上で、相続おもいやり相談室の当職のような専門家を遺言執行者を付けるのがよい。

なお、その遺言書には「遺言執行者の選定」を通常はすると思うが、相続法の改正で権限が強くなったのと記述のように「相続させる遺言は登記に負ける」ことになったので、マメな遺言執行者が重要性を増している。相続発生後、すぐに遺言執行者が相続人に対して遺言の内容を通知し、不動産登記など遺言の執行手続に取り掛かり、またすぐに遺言の執行に抵抗しそうな相続人が出てくることが相続おもいやり相談室の当職の経験ではもう当たり前。必ず専門的な遺言執行者を指定すべし。

2.遺言は「いい日旅立ち」だ

人の命は儚い。そのうち遺言書を作ろうかでは、心配なことは生前にボケないうちに意識はっきりしているうちにしておこう。立つ鳥跡を濁さず。

遺言書は民法の定める要件でない無効な法律文書なのだ。耳が遠くなったり、手が震えたり、目が不自由になったりすれば公正証書遺言でさえサインが必要なので作成が困難になる。もっとも公正証書遺言なら、公証人が本人の代わりに署名をしたり、自宅などに出張したりしてくれる場合もあるが、公証人が一人で嫌がる場合の役場では健康を害してしまうと難しくなる一方である。しかも無理に作ると、将来、遺言能力に問題があったと相続人が主張して、訴訟を起こす場合もある。厄介なことになる。

相続おもいやり相談室の無料相談はいつも盛況であるが、当職もいつまでも無償のエネルギー続くわけではない。遺言書の作成を引き延ばして、ついに病床で余命を宣告されたあとに遺言書を作ろうと思っても、すでにそのような体力も時間も残されていない場合は生前の善意志は消えてしまう。

そもそも遺言書の作成は法律上、15歳から可能で、人は物事を予知できないのであるからあらゆる事態を想定した遺言書を作ることは不可能で、今現在、自分か死んだら誰が困るかを考え、とりあえず遺言書を作ってしまうのがよい。

また、財産や人間関係に大きな変化があれば、その時に遺言を追加したり、取り消したりして作り直せばよい。新しいものほど有効と民法は定めている。

■第一〇二三条(前の遺言と後の遺言との抵触等)
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

3.遺言作成でよくある実務上の懸念事項

(1)遺産の配分の難しさ

誰も不平のまったくゼロの遺言はない。「誰にどの財産を相続させるか」に正しい解はない。数学ではない。人文科学なのだ。考慮ファクターは、相続人とのこれまでの関係である誰にどれだけ援助したか、反対に援助されたか、これからの関係である介護を担うのは誰かのような多分に主観的な要素が入らざるを得ないことや、法定相続分や遺留分など客観的要素もある。

ベストは、大きな枠組みからはいる方法をお勧めする。

まず土地、預金・株式である。次いで価額のバランス調整に生命保険の受取人を考慮する。これで大枠が決まる。

預貯金や不動産など名義変更の必要があるものは必須であるが、網羅的な記載も不可欠である。その他一切の財産については誰々に相続させるという書き方をする。

また、相続おもいやり相談室の当職の実務ではないが、法律相談での自筆に多い「あげる」「引き継がせる」「誰々のものとする」などの曖昧な書き方だと、遺言の効果が生じない可能性がある。基本は、法定相続人に対しては「相続させる」、法定相続人でない人に対しては「遺贈する」と、法律用語を使う。

(2)ケチな遺言者

自筆証書遺言は無料で作れるからと言っても、民法の定める要件を満たさない方式や内容不備で無効になりやすく、相続人間のトラブルに発展しがちである。京都のかばん屋事件を見ればよくわかるであろう。

※京都市東山区東大路通古門前上ルにある「一澤帆布工業株式会社」における「2つの自筆証書遺言」では、裁判所の判断が分かれた。「第1の遺言書」は、1997年(平成9年)12月12日付で作成された。この遺言書の開封から4ヶ月後の2001年(平成13年)7月に、「第2の遺言書」が出てきたが、この遺言書は、2000年(平成12年)3月9日付で作成されたものであった。両者には矛盾抵触部分がある。原告の主張は「第2の遺言書」の作成時点で信夫は既に脳梗塞のために要介護状態で書くのが困難だったこと、「第1の遺言書」が巻紙に毛筆で書いて実印を捺印しているのに対して、「第2の遺言書」が便箋にボールペンで書かれていること、捺印している印鑑が「一澤」ではなく信太郎の登記上の名字「一沢」になっていることから、「第2の遺言書」は無効だと主張したが2004年12月に最高裁判所で有効が確定した。しかし、原告を変えてのその後の裁判では、2008年(平成20年)11月27日、大阪高等裁判所(大和陽一郎裁判長)は、遺言書は偽物で無効と確認。重要な文書なのに実印でない認印が使われる事や信夫が生前こだわって使用していた「一澤」ではなく「一沢」が使用されたなどの不自然な点があり、真正とは認められないとの理由からである。2009年(平成21年)6月23日、最高裁判所第三小法廷(藤田宙靖裁判長)は、この大阪高裁判決を支持し、遺言は無効で、信三郎らの取締役解任を決定した株主総会決議を取り消すとの判決が確定した。wikipedia参照。

このように、もし訴訟になった場合、大変な労力とカネを消費する。ひっくり返ったこの事件を見ればわかるように、最初から公正証書遺言にしたほうが費用対効果は高いのだ。

揉めなくても、遺言執行人まで含めた公正証書遺言にしておけば、自分の生活を犠牲にすることなく、相続財産を受けることができよう。

(3)万一に備えた遺言

人は必ずしも年齢順には死なないが、通常は年齢順死亡と考えて、遺言書を作ると、突然、後の順位の人が亡くなったときに、対応できない。この前後を書くとしつこくなることがあるので、予備の予備はあらゆることに予備までは必要がないが、気になる部分は予備的遺言を作る。

相続おもいやり相談室でも経験から言うと書いた方がいいのは、遺言者が先に死んだ場合、相続させたい相手がその時点で亡くなっている場合である。

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