変わる遺言書の作成実務:改正相続法による遺言書の書き方ポイント その3
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1.「清算型遺言書」の有効性
全財産をお金に換えて相続人に分けてほしい時は、全財産を換価換金処分してから相続人に分けることになる。この場合は、遺言執行人はほぼ必須であろう。相続おもいやり相談室の当職はこのパターンの遺言書に指名された遺言執行人を経験豊富であるが、かなりのパワーと法律知識が必要である。
当職がたまたまそうなのか、弁護士もみんなそうなのか寡聞にしてわからないが、相続人などの妨害が入ることがいつもだ。
知識とパワー、そして信念で乗り切るしかないのだ。相続人や受遺者への振込完了し、登記その他の諸事が完成までかなりハードな仕事だ。
例えば、遺言書の第1条等に「遺言者は、遺言者の有する不動産全部を売却し、その売却代金から売買手数料、移転登記費用、不動産譲渡所得税等を除いた残額を、次条以下の財産と合算して、○条に掲げる遺言書指定の相続財産の配分方法に従って、それぞれの受遺者及び相続人に相続させる。これらの一切の手続きについては、○○条の遺言執行人に一任する。」等の文言が必ず入る。
なお、遺言執行人はこれまでの相続おもいやり相談室の当職の経験では、まず親族特に長男や長女を当てたがるのであるが危険である。
法律判断だけでなくて下記の税法上の判断も必要であり、振り回されてしまう。税法にも詳しい弁護士などに依頼することを強くお勧めする。
2.相続税対策は遺言でも可能な部分がある
(1)「相続税法」の特例措置の利用
誰に何を相続させるかを指定した遺言書があれば、相続税の申告期限である10ヵ月以内に速やかに遺産分割などが終了して、相続税の申告ができるため、下記のような特例措置その他税法上の有利な条項適用を受けるので、節税が可能になろう。
① 基礎控除のほか、配偶者控除の最大限の活用
② 小規模宅地等の特例の活用
③ 中小企業の株式や農地の相続税の納税猶予制度の活用
(2)改正相続法の規定の利用
配偶者居住権(改正後民法1028条1項2号)は、節税策としても注目を浴びているが、遺言によっても設定できる。ただ、まだ実際の納税もないし、税務実務が動き出していないので、十分に国税庁に情報に注意したうえで活用すべきであろう。また、改正法に詳しい専門家に相談するべきである。
3.法定遺言事項とは
(1)遺書と遺言の違い
まず、遺書と遺言は違うことを理解すべきである。小説やドラマに出てくる「遺書」は、生前の自分の考えを亡き後の親族などに伝えるもので、方式も内容も全く自由である。
これに対して、法律上の力を持つ(裁判所の力を利用してでも実現できる強制力を持つもの)が民法の定める「遺言」なのである。
(2)遺言の機能
遺言書を作るのは、財産等をスムーズに相続人に引き継ぐため等の機能がある。本人の死後、不動産の登記や銀行預金の解約手続の際に、遺言書があれば全く滑らかにカネ移動が行われる。
相続おもいやり相談室の当職も嫌というほどの力を知っているわけであるが、遺言書があれば、法務局も銀行も一安心する訳で、相続手続に関与する相続人は少なくてすみ、添付書類も少なくなるので、手続が簡略化されてとても便利なのである。
なお、実務的には、法務局でもそうであるが、相続に詳しい担当者であるかどうかは、ほぼ偶然要素であるの如何ともいがたいところがあるが、せめて生前に、3大メガバンクに移しておいてらえると違う。
当職が後見人からかかわっているときはそうしているが。
閑話休題
法的効果のある遺言書に書ける内容は、財産と相続人に関することが中心でそれが法定遺言事項である。
もっとも、法定遺言事項以外も書くことは可能で法的効果は生じないが、相続おもいやり相談室の当職は原案作成の時に「付言」として、なぜ当該遺言内容が決めたかをまず記載しておくといい。また家族への感謝の言葉を書く。
ただ、注意すべきは、遺言書は将来、法務局や金融機関など第三者に見られることがあるし、公正証書遺言は法定相続人がコピーである謄本を入手できるので、付言事項も何でも書いていいわけではない。関係者のプライバシー侵害につながるおそれのものは書かないこと。
(3)祭祀の主宰者は書いた方がいい
自分の葬儀のこと等法事など祭祀行為、亡くなった後の葬儀費用の分担など相続財産には含まれない各種費用の負担については、強制力がない。しかし、経験上は遺言書に書かれていれば、遺言者があえて書き残したこととして、相続人は尊重することが多い。
特に、葬儀から納骨、その後の法事などの祭祀の主宰者は決めておくこと。併せて事務処理の基準や指針、また祭祀行為や遺言執行費用の負担に対する指示があれば相続人が尊重して扱うことが多い。
4.主な「法定遺言事項」および「実務上法定されていないが効力をもつと考えられている項目」
(1)相続分の指定(民法902条)
法定相続分と異なる割合で相続分を指定できる。例えば、妻と長男の法定相続分が2分の1ずつのところを、妻は4分の3、長男は4分の1というように変更できる。
(2)遺産の分割方法の指定(民法908条)
誰に何を相続させるか、具体的に指定できる。指定の方法には、いくつか種類かおり、もっとも一般的なのは、「長女である○○には不動産を、長男である○○には預貯金をそれぞれ相続させる」というように、特定の財産を特定の相続人に相続させるよう遺言する方法である。
(3)推定相続人の廃除(民法893条)
推定相続人の廃除とは、被相続人にこれまでひどいことをした推定相続人(将来、相続人になる予定の人)から、被相続人の意思にもとづき、相続人の資格を奪うことである。これは、親不孝が極端にひどい場合が典型例である。
廃除されると、遺留分も含めて相続権がなくなる。意外とある。この手続は生前にすることも遺言書によってすることも可能です。後者の場合は、相続開始後、遺言執行者が家庭裁判所に廃除を申し立てることになる。
推定相続人の廃除が認められるのは被相続人への虐待や重大な侮辱を加えた場合、またはその他の著しい非行があった場合である(民法892条)。極点な場合でないとなかなか裁判所は認めない。
なお、機能的に遺留分を有しない推定相続人である兄弟・甥姪は、廃除の対象としなくても、遺言で財産を渡さないことにしておけば済むの廃除の対象ではない。
(4)配偶者居住権の設定(改正民法1028条1項2号)
被相続人が配偶者に対し、新しく創設された配偶者居住権を設定したいと考える場合は、遺言で定められる。
(5)遺贈(民法964条) (…続く その4へ)